18歳で上京し、すでに人生の半分を東京で過ごした私は、いつしかとある法則を見出していた。
「東京の人気観光スポットではグルメは楽しめない」
というものだ。
浅草などの老舗スポットならばいざ知らず、六本木ヒルズにしろ、東京スカイツリーにしろ、「いや、どこでも食えるやんけ」みたいな飲食店がとにかく多い。これは決して「まずい店ばかり」という意味ではない。むしろ「どこにでもある店」なだけあって、ゆうに平均点は超えてくるような店ばかりだ。ただ、東京の人気スポットの多くは、わざわざグルメを楽しみに行く場所ではないのだということを見せつけてくる、チェーン店の巣窟なのである。
これはお台場も例外ではない。
観光スポットやショッピングスポットが数多くあるにも関わらず、「ま〜たお前? さっきも向こうで会わなかったっけ?」と訝しんだおちょくり笑顔で声をかけたくなるような飲食店ばかりだ。
で、今回紹介する「権八」もチェーン店ではある。私だっていい歳だ。権八がチェーン店だと知らないほどウブではない。
しかし、お台場の権八は他の権八とは一味違う。その違いは、店に入ってすぐに理解することになるだろう——!
入店直後に見せつけられる「圧倒的お台場感」
私は思う。皆、なんのためにお台場に行くのだろう、と。
ヴィーナスフォートの観覧車が跡形もなく、実態なきただの記憶の中の産物と化した今、お台場に向かう目的は映画だろうか? ショッピングだろうか? お食事だろうか? ただそれらを目的に足を運ぶには、どうもお台場は弱いと思わないか。なぜならそれらを全て達成できるスポットなんて、東京にはいくらでもあるからだ。しかもお台場は、交通の便が絶妙に悪い。
それでも多くの人がお台場に行きたがる理由、それはやはり景色ではないだろうか。
陸の孤島(むしろほぼ海の上)、お台場から望む都心側の夜景。レインボーブリッジに明かりが灯り、その下を安っぽくて華やかな照明を携えた屋形船が往来する。間近で見ると大迫力のはずのスカイツリーも東京タワーも六本木ヒルズも、ただその広々とした景観の一角を担うだけのブロックになっている。それもまたいい。
そんな、普段の自分の日常に存在しない、非日常を味わえる景色を求めてきているのだ。ならば、せめてゆっくり食事をする時には、その景色の中に身を投じたいとは思わないか。
アクアシティといえば、お台場というエリアの中でもお台場海浜公園、つまりレインボーブリッジ側に面したビルだ。嫌でも景色に対する期待が高まるというものだろう。
それではご覧ください。権八お台場店の窓から見える景色を!
いや、天気悪。デーモンが舞い降りてくる直前の禍々しさなんですけど。
雨のせいで都心にもやがかかっていてよく見えないね! 5割くらいしか、権八からの景色の良さが伝わらないよ! 実際は店に入った瞬間、奥の大きな窓一面にレインボーブリッジと都心の景色が広がっていて結構壮大なのだけれどね。
予約をする際は、その窓に面しているお座敷席がおすすめだ。多分、お台場花火の日なんて最高だと思う。そういった日に予約可能なのかどうかはわからないが。
ちなみに、権八のお台場店はアクアシティ内の映画館に降りるエスカレーターのすぐ横に並んでいる、上階に向かうエスカレーターを一つ上がったところにある。飲食店はショッピングビルの一番上の階にあるのが定石だが、権八は他の飲食店とは少し違った場所にあるので要注意だ。
前菜の鉄板はこれ
この権八お台場店には刺身がない。いつ行ってもメニューにないから、ないのだろう。その代わり、おすすめの中に毎回カルパッチョがある。行くタイミングによって魚が変わるので季節のものが使われているのだろう。生魚を食べたいならば、カルパッチョ一択だ。
正直、この店で他のサラダを食したことはないのだが、サラダを注文するのであれば権八サラダ(780円)がおすすめ。
サラダ選びというのは、意外に難しい。
生ハムや粉チーズがふんだんに使われたシーザーサラダや、パリパリのナチョスみたいなものやベーコン、アボカドペーストがモリモリに入ったコブサラダは、満足度が高い一方で本来のサラダを食べる理由を阻害するメニューだ(と私は思っている)。カロリーが高すぎる。ただサラダを自称しているだけで、もはや概念としてはサラダというものから外れた存在ではないか。
じゃあ、グリーンサラダを頼めばいいという意見もあるだろうが、これもまた違う。物足りないのだ。カロリーは低いだろうが、こんな物足りないもので腹の容量をわずかでも圧迫するくらいなら食わなくていい。最初っから唐揚げを食います。そう思ってしまう。
その点、この権八サラダはちょうどいい。水菜が中心でドレッシングもさっぱりしている。が、中に入っているアサリがいい。なんにしてもタンパク質がないメニューというのは味気ないものだが、だからといって塩味が強いハムやベーコンなどはトゥーマッチになることがある。そこをちょうどいい加減でカバーしているのがアサリだ。
ダイエット中にも絶対いい。そんな味がする。それなのに満足感がある。
濃厚手作り豆腐(530円)も美味しいんだよね〜。
250円でサラダにトッピングすることも可能らしいが、今回は別で注文。
かける醤油は最小限でOK。むしろ何もかけなくてもいいくらい味がしっかりある。
やっぱり酒を飲む時はポテトも必要だよね〜。ここのポテトは青のりなんだよ。480円。
味はそこまで濃くないため、「やっぱ酒にはDopeなポテトだろ〜」と思っているタイプの人には少し物足りないかもしれない。
今回は注文しなかったが、この店の良いところは天ぷらの盛り合わせだけではなく、海老天ぷら五本盛り(1,350円)があるところなんですよ。「天ぷらは食べたいけど、芋とかかぼちゃとかいらねえんだわ」って人は結構多いと思う。意外にこういうニーズに応えたお店は少ないのだよね。
とんでもない高級串を頼んでみた
権八って焼き鳥とお蕎麦のお店。
てことで、特製つくね(320円)、鶏かわ(230円)、鶏もも(280円)、もちチーズベーコン巻(350円)を注文。
わりとよく焼き系の印象あり。私は、ももが一番旨みが凝縮されている気がして気に入った。
このフォアグラ串がすごかった。おそらく限定メニューで、通常のメニューのほうに記載がなかったので値段が分からず……。一つで1,000円は超えていたように思う……。串一つだぜ? 思い切ったよ。
写真をよく観察してみて。フォアグラの上に何が乗っているかわかるかな。
なんと苺が乗っているのだ。
フォアグラの上に苺、そしてバルサミコ酢。洒落てるぅ〜〜〜〜! 人類で最初に、酢豚にパイナップルを入れた人物以上のぶっ飛び思考を発揮させたメニューだ。
で、肝心の味は、「まあ、うまいよ」とただ一言だけしか出てこなかった。うん、フォアグラと苺を焼いたものにバルサミコ酢がかかっているな! まあ……合ってる、んだと思うよ。濃厚なフォアグラに果実と酢の酸味が。そう感じた。貧乏人がフォアグラなんか食べるからだな……ごめんね、作った人。
酒を飲みながら蕎麦を食べるタイミングに迷う
そして、そば。とろろせいろそば(1,080円)。
私は鰻屋で酒を飲んだ経験もなければ、蕎麦屋で酒を飲んだ経験もないので、その作法を知らない。ゆえに、飲酒をしている際のそばの処遇について戸惑うところがあるのだが、こんな感じで普通にサラッと飲酒の合間に食す感じでいいのだろうか。
お酒を飲むお店でそれなりにその店のメインっぽくそばのメニューを目にした際に、「〆に食べるのだろうか、それともおつまみのような感覚で酒とともにちびちび食べるのだろうか、わからん」と、毎回同じことを考えてしまう。
何はともあれ、味はうまい。
私は「蕎麦粉100%でーす!」みたいなツラを下げたコシがありすぎるそばがあまり得意ではないのだが、ここのは違う(ちなみにここが蕎麦粉100%かどうかはわからないし、違う気がする)。そばの香りがしっかりしていて、食感も優しくていい。
そう考えると、たびたび出会うことがあるあのコシがありすぎるそばはなんなのかね。毎度「ちゃんと茹でてます? とんこつラーメンでいう粉落とし程度しか湯に通してないだろ」と思うね。
ともあれ、食事を満喫してほろ酔いで帰路についた際に気がついたのである。
最初の「デーモン、現る」の写真撮ったとき以降、景色を一切見てなかったなーって。