アメリカンコッカースパニエルという犬を見たことがあるだろうか。
その名の通り、アメリカ原産の可愛い中型犬だ。かの有名なディズニー映画『わんわん物語』の主人公、レディーのモデルにもなっている。
私は子どもの頃、この『わんわん物語』が好きだった。VHSのテープが擦り切れるほど視聴したし、いつかはアメリカンコッカースパニエルを飼いたいと考えていたほどだ。
なにせ、あの耳が可愛い。大きな垂れ耳で毛がウェーブしている。
この写真はphotoACでダウンロードしたどこかの可愛いわんちゃんだ。口元がムイッとしている感じも可愛い。そしてやっぱりこの耳のウェービーなところが可愛い。
そう、犬ならね。
このウェービーな感じが人間の毛になるとどうだろう。途端にいけない。
私は、人間界のアメリカンコッカースパニエルを自称している。これは何も自分のことを可愛いと自惚れているのではなく、頭髪の形状の話だ。つまりとんでもないクセ毛だということだ。
たいてい、ストレートアイロンをする時間がなく外に出てしまったときには「え? 地毛なの? パーマかと思った」と言われる。
クセ毛や天然パーマの人ならきっと理解できると思うが、周囲からその髪型がいくら「パーマをわざわざかけたみたい」「可愛い」と思われようが、嫌なものは嫌だ。クセを活かした髪型とか、本当にしたくないんですよ。なんなら、わざわざ“クセ毛風パーマ”にしている人に対して心の中で(なんでわざわざ、我々の寝起きみたいなそんなクッソだせえ髪型にしてんの?)と思ってしまっている。
それくらい、クセ毛というのはクセ毛の人を悩ませているし、周囲が思うよりもずっとコンプレックスなのだ。が、髪の毛が長く、湿気のない季節ならアイロンでお茶を濁し続けることもできるにはできる。
しかし、今回髪の毛を短くしたことでクセがにっちもさっちもいかなくなり、セットが難しくなったため、私は縮毛矯正に踏み切ることにしたのだ——!
人生は短い。だから…
基本的に「家から出たくない/人に会いたくない」という引きこもりの性質を持つ人間は、「美容院やネイルサロンなどにも行きたくない」という感情を持っていることがほとんど(と私は思っている)。
引きこもり体質の人間というのは、ものすごく良く表現すればマイペースだし、普通の言い方をすれば自分勝手で他人に合わせられない人間なのだ。だから人と会うのが面倒になって、どんどん外に出なくなる。
もちろん、かくいう私もそのような自己中心的な人間で、やっぱり美容院には極力行きたくない。
美容院にいる数時間は、自分の好きな音楽を好きなタイミングで聴けないわ、仕事もできないわ、本を読むにしてもいつ美容師から話しかけられるか戦々恐々と周囲を伺いながらしか読めないわ、本当に己のペースで動ける瞬間が存在しない。
人生は、思ったよりきっと短い。
自分の思うように動けない時間が一日のうちのたった数時間でも存在していることがもったいないとは思わないか。
でも見つけちゃったんだよね〜! 家で好きな音楽聴きながら、好きな本読んだり、だらだらテレビ観たりしながら縮毛矯正できちゃうアイテムをさあ!
クリスタライジングストレートを買ってみた
これが家で縮毛矯正ができるクリスタライジングストレートだ。資生堂という“超安心企業”が出している業務用の液剤だ。1剤、2剤ともに400gと大容量。およそ5回分らしい。
楽天市場にて、2つの薬剤がセットで4,000円ほど。や、安い……!
第1剤は4種ある。
- EX(超強力タイプ)
健康かつ、硬くて太い、強いクセの髪の毛に使用するらしい。
これは本当にカラーも何もしていない超剛毛な縮毛矯正初体験の中学生くらいにしか使えないのではないだろうか。癖は強いが、そこまで硬くて太いわけでもなくカラーもしている私は、ここまで強力さを強調されたものは使ってはいけない気がしたため回避。
- H(強力タイプ)
健康毛〜ローダメージ毛で、クセが強い髪の毛に使用。
私は一応、ここなのではないか。カラーによるダメージがどれだけのものかは判断できないが、せっかく縮毛矯正したのに全然効果がなかったという事態は避けたい……ええい、ままよ! そんな気概で第1剤はHを選択。
この選択が、のちに私を恐怖へと誘う序章になっているとも知らずに……。
- N(矯正力控えめタイプ)
ローダメージ毛〜ミドルダメージ毛に対して、低いダメージで施術したい場合にはこれ。
あとから考えればこちらでも良かったかもしれない……。ある程度の年齢であれば、髪の毛は何度もカラーを繰り返している状態であることが多いだろう。今なら言える。このNか、もうひとつ下のSをおすすめする。
- S(ソフトタイプ)
髪質やクセの強い弱いに関わらず、すでにストレート処理をしたことがある部分やブリーチをしている髪の毛にはこれを使用するらしい。
なるほど。次自分で縮毛矯正をするにしても今回の余りを使用せず、このSを改めて買ったほうが良さそうだ。
第2剤は、おそらく真っ直ぐに伸ばした髪を定着(?)させるためのものなのだと思う。こちらは2種あった。
- クリーム
しっとりしている。塗布後の保持性が高いらしい。
- エマルジョン
さらさらしていて、液状。塗布中の操作性が良いらしい。
これらの説明を見る限り、どうもテクスチャーにしか変わりがないようだ。その後の髪質に影響があるのかどうかは不明だが、とりあえず髪のパサつきが気になるのでクリームタイプにしておいた。
第1剤、塗るのがむずい
まず、施術前の私の頭をご覧いただこう。
これが私のリアル。完全に、頭に筋斗雲貼り付けてるだろ。反対側にももう一個貼り付けていると考えてもらって差し支えない。
このくらい髪が短いと、一番困る部分が襟足なんですよ。アイロンで上手に伸ばせない上に、首筋に汗をかくとすぐに元通り。もう最悪。引きこもりに拍車がかかるというものだ。何度「髪の毛を切らなければ良かった」と後悔したかしれない。
第1剤を透明なプラカップに開けてみる。本当にひと捻りボトボトと落としたのだが、実際にはこの3倍くらいの量を使うことになった。クセ毛の人は往々にして毛量も多い。致し方ないだろう。
手にビニール手袋をしていざ塗布開始〜。もちろん、首元にタオルやケープをするのも忘れずに。
根本から1センチほど間隔を空けて塗っていくのだが、普通に難しい。
なんとなく、普段トリートメントを髪につける感覚で毛先からベタベタと手で塗り、その後にコームでとかして整える、という作業をやっていたのだけれど、そこそこ頭皮についてしまった気がしてならない。大丈夫なのだろうか。
全体に塗り終わったら10〜20分放置。私はフルタイム放置になんだか不安を感じたため、15分にした。
この工程で、髪のタンパク質の結びつきを一旦切断するらしい。写真のように指に髪の束を巻き付けても戻ってこなかったら(?)、OKとのことだが、そもそも濡れた髪を指にくるくる巻いてバイーン! みたいに戻ってくることあるか? そんなささやかな疑問とともに、(もしかして私の髪にはこの薬剤は強すぎたのでは?)という不安が沸々と湧いてくる。
放置時間を終えたら、髪の毛に塗布した第1剤を流していくのだけれど、この際にも私に微恐怖を与える事態が起こった。
頭を流した水の色がちょっと茶色い。
え? カラーの色落ちてね? 変な金髪になったりしないよね? 怖い怖い!
そう、慄きながら頭をジャバジャバと流した。
ちなみに、ここではシャンプーなどは使わず、どんなに恐怖を感じる出来事が起こってもしっかりと液剤を流しましょう。説明書きにも『特に根本は丁寧に』と書かれている。よほど頭皮にこの液剤がつくことを警戒しているのがわかる。今さら遅いが、注意して塗布しよう。
第1剤後のドライした頭、完全にアレと一致
第1剤を流したら、今度はしっかりと髪を乾かす。そして第2剤を塗布する前にストレートアイロンをかけるのだが、ここで今回のセルフ縮毛矯正で最恐の事態が発生してしまう。
え、待って。なんかやばくない?
完全に私が中高生くらいの時のサーファー雑誌『Fine』の表紙にいたギャル男なんですけど。
もうモザイクの奥の表情も死んでるよね。
カラーの色落ちはさほどでないにしろ、これ、大丈夫なの? ここにストレートアイロン当てるの? 絶対、ジュッ! とか音立てて髪の毛が空に消えていく予感しかなくない?
昔、ヘアアイロンを当てたらその部分の髪が一瞬で焼けて、その下がごっそり取れてしまったみたいな外国人のGIFみたいなの見たことあるぞ……。完全に「Oh…………My……God……」みたいな表情してたよ、彼女。彼女は私の未来の姿か? いや、まだ悪い予感があるだけ私のほうが幾分かマシだろう。
ええい、ままよ! 南無三!
私はストレートアイロンをギャル男風の頭髪に当てたのだった。
あれ……意外になんとかなった……?
私の髪の毛は、アイロンを当てた部分から千切れることなく持ちこたえてくれた。
なんだか髪の毛が若干散り気味なのが目につくが、案外悪くない。
しかし、こうして同じアングルで確認すると、施術前のカラーよりも若干緑っぽさが抜けてしまっている気がする。
第2剤を終えたら最終的にあのギタリストが登場
第2剤はテクスチャーが硬め。
こちらは髪をしっかりと酸化させなければいけないらしく、根本からしっかり塗布しろとのことだ。放置時間は2〜3分とあるが、ここはビビらずむしろしっかりと放置時間をとったほうが良さそうだ。
第2剤も写真の量の3倍は使った。こちらもたっぷりと、手とコームを使って頭髪全体に塗布していく。
そして放置して、流す。第2剤の場合はしっかりとすすいだあと、家にあるいつものトリートメントをした。なんとなく、普段よりも放置時間を長くしてみた。
そしてついに……セルフ縮毛矯正はファイナルを迎える……。
鏡の中にGLAY・HISASHIのまがいものみたいな人いた。
そういえば私、彼と同じ誕生日なんだよな。まさかここに来てこの伏線が回収されるとは。
このあと数日すると、真っ直ぐなまま少しボリュームが出てきていい感じに。第2剤を塗布する前の状態で毛が散ってない雰囲気に落ち着いた。
仕上がりは予々満足。まさか部屋のリビングで餓鬼レンジャー聴きながら施術したり放置時間を過ごしたりしながら縮毛矯正できるとはね。値段も美容院でやる1/5程度だし。
ただ、ショートの人はやはり襟足のアイロンはしっかりとかけたほうが良さそうだ。私は襟足が上手にできずにややハネが出てしまった。
今回、自分で好きに時間を過ごしながら安く縮毛矯正ができるというメリットの反面、やはりデメリットもあったように思う。
それはやはり、常に“正解がわからない恐怖”を感じながら作業しなければいけないこと。
髪の毛はたった今サラサラに落ち着いているとはいえ、「え? カラーの色落ちてね?」「ギャル男になったんだけど」そんな私が感じた恐怖が、本当はそんなに恐怖を感じる必要がなかったことなのか、それとも頭髪にとってはかなり危機的な状況だったのかが、いまだにわからないままだ。
まあ、あれだな。
「餅は餅屋」
そういうこと。おとなしく美容院行くのもいいのかもしれないな。