松島は宮城県随一の観光資源集合地だ。
遊覧船もある、温泉もある、伊達政宗の派手派手トンデモセンスが盛り込まれた瑞巌寺もある、荘厳を携えた日本庭園を持つ円通院もある。伊達政宗の蝋人形の館も、よくわからん縁結びの橋もある。
何より、日本三景に数えられた景観もある〜!
しかし北の松島から、西の天橋立、宮島までの間、他にそれなりの景色を持つ場所はなかったのか? と突っ込みたくなるほど松島〜京都間は距離が空いているし、京都〜広島間は狭い。おそらく関東や中部あたりはさっさと近代化してしまったために、未開の地東北の松島に至る間にあったはずの“なかなかの景色たち”は早々に失われてしまったのだろう。(※個人的見解)
県民からすると「松島といえば牡蠣」。松島海岸駅前を出て右手にのびる大通りには、食べ歩き用の牡蠣や海鮮を売る店が軒を連ねているし、牡蠣のカレーパンなども売っている。蝋人形の館のすぐ横には牡蠣小屋もある。
とはいえだよ。たとえば仙台松島あたりを旅行するとして、いちいちこの日は松島の牡蠣、次の日は仙台の牛たん、そしてずんだ餅やはらこ飯も食べなくちゃ〜でも朝はホテルの朝食バイキング気合い入れないと〜なんてやっていたら、グルメは網羅できない。できるだけ1つの場所である程度食べておきたいけれど、ファミレスのような全部のメニューの実力が65点みたいな店には入りたくない。できれば全てのメニューが120点の店に入りたい。
で、あるんだよ。そういう店が。この松島にさあ。
「どこにでもあるじゃん」という偏見が招く機会損失
その店の名は「利休 松島五大堂店」。その名の通り、松島の観光スポットである五大堂のすぐ前に店舗を構えている。
利休は誰もが知る牛たん専門店である。北は北海道、南は鹿児島まで店舗があり、東京都には10店舗もある。これは宮城県に次ぐ店舗数だ。ゆえに「どこにでもあるじゃん」という考えから、茹でたんや牛たんソーセージなど、牛たんを使ったメニューが豊富かつ宮城県内のみで店舗展開をしている「たんや 善治郎」や、常に一番町の通りに行列を作っている「牛たん料理 閣」などを旅行中の一食としてチョイスする人もいるはずだ。
しかし、この五大堂前店は違う。他の利休とは違う。
そもそも、利休は店舗によって仙台あおば餃子や牛たんつくね、芋煮などの一品料理が変化するのだけれど松島五大堂店はとにかく、海鮮関係のメニューが豊富なのだ。さすが松島。
牛たんも食べたいけど海鮮も食べたい時にうってつけなのだ。
お酒を飲むなら牛たんシェアがおすすめ
夜ならばがっつりお酒を飲みながら牛たんを食べたい、という人もいるだろう。肉はたくさん食べたいけれど、ひとりひとり米やテールスープはついてくる定食を頼むのは重い。と考える人は多いのではないか。
利休の牛たん定食は(単品も)牛たんの枚数を選べる。まあ、他の店もそうなのだけどね。しかし、このシステムはお酒を飲みたい人と飲まない人が同じ団体にいた場合に結構嬉しいシステムなのだ。
どういうことか説明するとだよ——。
私たちは大人3人、9歳の息子の計4人で入店。ビールやコーラ、他のアラカルトとともに注文したのは「牛たん極(きわみ)定食」の5枚10切(上写真)。枚数は他に、3枚6切、4枚8切がある。
この5枚10切、なかなかボリュームがあるのですよ。結構食べる量に自信ありの人ならいざ知らず、普通の人なら3枚6切か4枚8切の定食で十分すぎる。
つまり団体の中にひとりでもお酒を飲まずに飯を食いたい人(子どもとか)がいるのであれば、5枚10切の極定食を注文して、牛たんはシェアするという方法がおすすめ。もちろん、お酒を飲む人ばかりの集団だったとしても、枚数を指定して注文したり追加したりできるのがいい。
ちなみに、我々の場合、麦飯やとろろ、テールスープは全て息子が食べたのだが、4枚8切分も彼が一人で食べ(さらに麦飯をおかわり)、結局3枚6切の牛たん極の単品を追加注文した。
味はもう言うまでもないよね。分厚い牛たんの味と塩味が麦飯にも酒にも最高に合う。柔らかいのに歯ごたえがさっくりとしているのもいい。「牛たんは噛み切れなくて好きじゃない」という人が時々いるのだけれど、本当に利休の極はそんな感想抱く余地皆無。
この独特の食感、仙台発祥の牛たん屋さんにしかないような気がするのだけれど、なぜなのだろう。私としてはこの食感は、特に利休の極で感じられるものだと思っている。まあ、いつも利休でしか牛たんを食べないから、他の牛たん屋さんはあまりわからないのだけれど。
まるで殿様専用の舟盛りなのに…
海の見える街に来たら、食べたいのはやっぱりこれでしょ〜。利休の松島五大堂店には、こんなお殿様くらいしかお召し上がりになられないような舟盛りまであるんだぜ。
この舟盛り、3〜4人前で3000円くらい。この物価が上がり続けている令和日本において、ここだけが平成初期の価格設定に思えて心配になる。だって、東京で5000円くらいする舟盛りよりボリュームもあるし、色ツヤも美しいんだもの。
もちろん牡蠣もある。松島だもの。
蒸し牡蠣の上に牛たんのローストとウニが乗ってて洒落てるう〜! ビストロかよ。
貴重な1個を、息子に「牡蠣とウニはいらないから牛たんのローストだけくれ」と悪徳な仲介業者ばりの中抜きをされてしまった。しかし、私のような馬鹿は何を組み合わせて食べても「美味い」と感じてしまうため、【蒸し牡蠣×牛たんロースト×ウニ】のマリアージュも、【蒸し牡蠣×ウニ】のマリアージュもどちらも美味しいと感じた。「個々だといいんだけどね」などとカッコつけた批評はしないタイプの人間だ。美味いものは重ねれば重ねるほど美味いのだ。
これだけの豪華食材を使用しておきながら、たしか800円ほどだったような……。なんなのこの店、殿様が身銭切って道楽でやってる店か何かなの?
ちゃっかりカキフライも注文。あまり焦って口に運ぶと中身の灼熱に口内を攻撃され、味も何も感じられないまま終了するので注意だ。
ちなみに、今回我々は胃袋許容量の関係上注文していないが、「鮪とネギトロのこぼれ寿司」とか「サーモンとイクラのこぼれ寿司」とか「牛たんとウニの握り」とかもある。調べたところ、やはりこれらの寿司メニューも他の店舗にはないみたいだ。
天ぷらも天ぷらで何かがおかしい
天ぷらも完全に「原価計算とかできない世間知らずの殿様がなんとなくでお出しした量」で笑う〜!
エビ2つ、ナス(巨大)、カボチャ、さつまいも、海苔、大葉(巨大)、アスパラ(巨大)、そして顔の縦幅より長い穴子。完全にひとりで完食させようなんてさらさら感じられない量の天ぷら盛り合わせも1400円くらいだったんだよな。
値段はいくらくらいだっけな? と今一度調べるためにぐるなびのサイトを見てみたのだけれど……。
↑これ。ぐるなびのページのキャプチャなのだけれどね……。
いや、こんなカゴにちょちょいと天ぷらが乗せられた感じじゃないよね? コメダ珈琲ばりの逆写真詐欺なのですが……。
お手洗いまでの道のりで感じたホスピタリティ
この「利休 松島五大堂店」、お手洗いは地下にあるのだけれど、階段の踊り場にとんでもないものを発見してしまった。
松島の見どころや映えスポットなどが紹介されている、手書きのマップが貼ってあった。
純粋にすげえ。綺麗だし、可愛いし、観光スポットに出向く際に欲しい情報(入場料や営業時間など)がみっちり描かれている〜! どこでWi-Fiがつながるとか、地味に欲しい情報がめちゃくちゃ集約されている〜!
誰が描いたのだろう。描かれている内容やタッチから見るに、おそらく若いバイトの女の子とかなのかな? ホスピタリティが素晴らしいし、内容から松島や仕事先へのリスペクトが感じられて、心が熱くなったよ。
今度「利休 松島五大堂店」に行ったら、「このマップを描いた方はどなたですか? 勝手に表彰したいです」とお伝えしたいくらいだ。ついでに、「オーナーの殿様も、庶民のためにありがとうございます」とお伝えしたい。まあ、私はただ注文のために店員さんを呼ぶだけでもモジモジするような人間なので、実際は心の中でつぶやくだけなのだけれど。